ぜんぶ「私」だった その2

2014年8月14日

昨日の続きです

 

 

 

その感覚は突然訪れました。

 

日にちもはっきりと覚えています。去年の6月23日のことでした。

 

その日は確か日曜日で、私は恋人と共に一日外に出かけていました。夕方、上野のカフェに入って、歩き疲れた足を癒しました。私は普段、コーヒーを飲まないのですが、甘いケーキと一緒に、どうしても苦いものが飲みたくなって、「今日ぐらい大丈夫かな」と思って注文しました。

 

そのコーヒーは、多分、特別濃く入っていました。半分ぐらい飲んだところで、「ちょっと、これはまずいかも……」とは思いました。少し、動悸がしていました。私は本来、コーヒーのカフェインを受け付けない体質であり、無理して飲むと心臓がばくばくいって、全身から変な汗が出て、視野が狭くなり、ついでにひどい焦燥感と自己否定感に襲われるのです。

 

なのに、なにを思ったか、その日の私は、それを余さず飲み干してしまったのです。なんだか自分の意志とは無関係に、物事が勝手に進んでいるような感覚でした。

 

その後、私たちは普通に夕飯を食べ(お店の外は大雨でした)、ビールも少し飲み、20時頃にそれぞれ帰路に着きました。その時点では、まだカフェイン中毒の症状は抑えられていました。

 

が、約一時間後に帰宅した私は、どうしようもない不安感に襲われ、そのままベッドに倒れ込んでしまいました。なんでコーヒーなんか飲んじゃったんだろう、と思う間もなく、きつい自己否定が始まりました。カフェイン中毒の症状が突如として極まったような感じでした。アルコールとの組み合わせもまずかったのでしょう。

 

自分の持っているものへの疑い、現在の収入への不満、将来のすべてに対する不安、そして過去にあった嫌なことのフラッシュバックの数々……。とにかく、自分というものを否定しまくるような思考が止められず、かと言って泣くことも叫ぶこともままならず、じっと布団にしがみついて、時が過ぎるのをいたずらにやり過ごすことしかできませんでした。

 

その時、ふいに、その日は満月、その上「スーパームーン」と呼ばれる現象が見られる夜であることを思い出しました。

 

無理やり身体を起こし、よろよろとベッドを抜け出してカーテンを開いてみましたが、月は見えませんでした。(その時にはすでに雨は止んでいました。)身体を起こしているだけできつい状態でした。でも、なんとなくそのまま窓辺の椅子に腰かけました。そして目をつぶりました。

 

電気は消していました。真っ暗な部屋の中で、ひとり椅子に腰かけて、いつも瞑想をするときのように深い呼吸を意識しましたが、気分は冴えません。息を吐くことだけを意識して、数分間頑張ってみました。少しだけ、落ち着いてきたような気がしました。

 

その時、ふいに、「自分を殺してみよう」と思い立ちました。もちろん、「想像の中で」です。

 

なぜそんなことを思いついたのかはわかりません。でも、とにかく、自分には、「一度」死んでもらう必要があると思ったのでした。

 

若い衆や 死ぬが嫌なら いま死にやれ 

ひとたび死ねば もう死なぬぞや (白隠禅師)

 

あらためて姿勢を正して、ゆっくりと深呼吸を続けました。そしておもむろに、自分の死に顔を、ものすごくリアルに想像し始めたのでした。表情、顔色、肌の質感、冷たさまで、細部までありありと描きました。まるで目の前にその死に顔があるかのように、手を伸ばせば触れるほどの距離感で、とにかく、ものすごくリアルに……。

 

私はいつしか、葬式の弔問客となって、自身の亡骸が横たわる棺の中を覗き込んでいました。

 

棺の中の私の死に顔は、たいそう白く、細く、頼りなく、そして少しだけ苦しそうでした。

 

その姿をみとめた刹那、突如として、かつてないほどの自己肯定感が、この身を襲ったのでした。

 

「ああ、この人も、この人なりに、一所懸命に生きてきたんだ……」

「馬鹿なことばっかりやってきたけど、それでもその時々の最善を、この人なりに懸命に選んで、ただただ必死で生きてきたんだ……」

 

そんな風に思えたのでした。

 

その瞬間、涙が止まらなくなりました。自分という存在が愛おしくて愛おしくてたまらなくて、声をあげて泣きました。もうほとんど「慟哭」と言っていいほどの、激しい泣きっぷりでした。

 

こう書くとなんだかナルシシズムの塊のようで気持ち悪いのですが、でも、とにかく、その瞬間、私は、「自分」なんてものを軽く飛び越えたような、存在そのものへの圧倒的な「ゆるし」の中にいたのでした。

 

自分も、自分以外も、とにかくこの世に生きとし生けるもの、すべてが、圧倒的に、愛おしかった。この世界を、美しいと思った。「いのち」そのものが、愛おしかったのです。

 

泣いていた時間がどのぐらいだったのかは覚えていません。でも、散々泣きつくしてしまったたあと、私は、かつてないほどの「静寂」に、全身をすっぽりと包まれてしまった自分を発見しました。

 

「あ……」と思った次の瞬間、いきなり脳みそがぐるんぐるんとかきまわされるような感触があって、右も左も上も下もわからなくなるような感覚に襲われました。

 

そして、私は、「それ」そのものになっていたのでした。

 

「私」も「あなた」もない世界に、「それ」そのものとして、存在していたのでした。

 

 

 

と、ここまで書いてすでに2000字……!

 

ということで続きはまた明日……。ごごごごごめんなさい!!!