発酵はまさしく錬金術!

小出:私も、豆乳ヨーグルトを自分で作るようになって初めて知ったんですけれど、発酵食づくりって、思ったより簡単なんですよね。

栗生:そう、ほんとうに簡単なんです。

小出:ねえ。私も、最初は本に書いてある通りに、玄米から真面目に菌を起こしてヨーグルトを作っていたんですけれど、ある日、ふと思いついて、麹の甘酒の上澄みと豆乳を混ぜて、そのまま放置してみたら、めちゃめちゃおいしいヨーグルトが超簡単にできちゃったんですよ(笑)。興奮しました。すごい! これは錬金術だ! って。

栗生:どこからでも菌は持ってこられますからね。まさしく錬金術。

小出:しかも、ほとんどなんの技術もいらない錬金術ですよね。菌は、自然界に当たり前のようにして存在しているわけで。だから、いざとなったら菌の力を借りて、なんでも醸して食べてしまえばいいんだ、って。そう思うと、それだけで心がどっしりするし。自分が安定したら、いまのお話みたいに、周りにもやさしくなれるし。そこから調和的な世界が開けてくると思うし。

だから、私も発酵生活初心者なので、あんまり偉そうなことは言えないけれど、でも、できるだけ多くの人に発酵に触れて欲しいな、って思いますね。ほんとうに、いろんな気づきをいただけるので。実際、まったくハードルの高いものじゃないですし。

栗生:うん。各家庭で、発酵食をひとつでもいいから作って、常備してもらうことが、私のいちばんの願いですね。まずはひとつでいいんです。そこから大きく広がっていくものが、かならずあるので。私の役目は、させてもらえるのであれば、それを縁ある方々に伝えていくこと。

小出:役目。さっきも、菌にはそれぞれ役割があって、彼らはただただそれを果たしているだけなんだ、っていうようなお話がありましたよね。でも、これも、やっぱり、菌だけじゃなくて、人間もそうだし、すべてにおいて言えることなんじゃないかな、って。

栗生:菌の世界で起こっていることは、外の世界でも起こっていますからね。

小出:きっと、ほんとうにそうなんでしょうね。

全体の中で、個としての役割を見出す

小出:それに近いお話で、私、最近、生物学者の福岡伸一さんと作家の川上未映子さんの対談を拝読したんですね。その中で、福岡さんがこんなことをおっしゃっていたんです。

自己とは何か、という問いに生物学はどこまで答えられるかわかりませんが、一つヒントになるのは、細胞のメカニズムです。細胞はあらかじめ心臓の細胞になったり、脳の細胞になったりといった風に機能が決まっているのではなくて、「君が心臓になるなら、僕は筋肉になる」とか、「君が脳細胞になるなら、僕は頭がい骨になる」といった風に、まわりの細胞の動きにしたがって、まさに「空気を読みながら」変化していくんです。一つの細胞はせいぜい前後左右の細胞としかコミュニケーションがとれないのに、全体としてはうまく機能するようになっている。これを「相補性」と言います。反対に一つの塊になった細胞をバラしてしまうと、自分が何になったらいいかわからなくなってみんな死んでしまうんです。細胞よりさらにこまかいタンパク質や、分子のレベルでも同じことが言えて、パズルの一ピースのように組み込まれるとある役割を果たすけれども、一つだけでは何の役にも立たない。ほとんど無限の入れ子構造が成立しているんです。

(文春文庫『六つの星星 – 川上未映子対話集』 福岡伸一との対談「生物と文学のあいだ」より抜粋)

このお話が私は大好きで。やっぱり、自分の役割というのは、決して固定化されたものではなくて、全体からの要請によって生まれてくるものなんだなあ、って。でも、この「全体からの要請」「全体からの呼び声」というのは、「俺が俺が!」「私が私が!」って、ひとりで力んで頑張ってしまっているうちは、決して聞こえないものなのかもしれない。全体としてのひとつの「いのち」にくつろいでしまわないことには、菌や細胞みたいに、調和的に、流動的に生きていくのは難しいのかもしれない。

栗生さんは、ご自身の経験を通して、「めぐり」の中にある、全体としての「いのち」の存在に気づかれて。そこから反射されるようにして、ご自身のお役目を見出されて……。ほんとうに素晴らしいです。

栗生:いえいえ。小出さんもそうでしょう。全体の中で、小出さんにしかできないお役目を、しっかりと果たしていらっしゃいますよね。

小出:ありがとうございます。そうだったらうれしいな。

診療台の上ではじまって、診療台の上で終わった

栗生:私は、もう、ひとりきりで苦しんでいた栗生隆子の人生は終わったと思っています。あとはもう、全体の中で、与えられた役目を果たしていくだけだな、と思っているんです。

最初に少しお話ししましたけれど、半年ぐらい前かな、歯医者さんに行ったんです。それで、長年の体調不良の原因だった奥歯の水銀の詰め物を取って……。そのあとにね、その部分に、セラミックの歯を入れてもらったんですけれど、それがピタッっとはまった瞬間、なんだか涙が出てきてしまったんですね。

小出:涙が。

栗生:14歳の頃の私の歯を、そのままはめてもらった、って。理屈じゃなく、そういう感じがしました。そうしたらね、涙とともに、14歳からの記憶が、ぜんぶ、まさしく走馬灯のように、目の前に流れていって……。そのとき、ぜんぶを見たんです。

小出:ぜんぶ、ですか。

栗生:ぜんぶです。14歳のあの日から、あんなことがあって、こんなことがあって……って。まさしく、ぜんぶ。診療台の上ですべてがはじまって、診療台の上ですべてが終わって……。そう、「終わった……」って思ったんですよね、あのとき。14歳から、ほんとうに長かったけれど、いまここで、ぜんぶ終わった、終わらせることができた、って。

小出:苦しみの中にあった栗生隆子の人生という物語を、無事、着地させることができたんですね。

栗生:そうなんです。

ひとりひとりが自分の役割に気づけば……

栗生:でも、不思議なのは、私は、その間、ずっと診療台の上にいた、ということなんです。ただ、診療台の上にいて、なにもせずに、ただ、見ていたんです。すべてを。最初から、最後まで。診療台の上から、1ミリも動かずに。

小出:ただ、すべての記憶を、映像として見ていた?

栗生:うん。まさに映像。長い長い映画を観ていたようなものですよね。

小出:映画ですか。じゃあ、それが実際にあったことなのかどうかは……

栗生:ぜったいにわからない。

小出:ぜんぶ、診療台の上で、「いま」見たことで。

栗生:そう、14歳からの長い苦しみの記憶を、私は、「いま」見たんだ、って。でも、もう、終わったんだ、って。もう、どこにもないんだ、って。

小出:すごいお話です……。

栗生:でもね、それがすべて実体のない記憶の産物に過ぎないとしても、私は、いま、その経験を活かすことができるから。

小出:それこそ、ご自身のお役目として。

栗生:そう。経験を活かして、自分の役割を、ただ、果たしていけたらいいな、って。その先になにが展開されていくのかはわからない。でも、みんなでひとつのいのちを、それぞれが、それぞれに与えられた役割をしっかり果たしていくことによって生きていくことが、そのまま光の方向に進んでいくことにつながっていくから。その確信だけはあるんです。

だからね、それは、私ひとりだけじゃできなくて。『スイミー』じゃないけれど、みんなが、全体の中で、それこそ大きな「めぐり」の中で、自分自身の役割ができたらいいですよね。発酵生活の良さを伝えていくことで、ほんの少しでも、そのお手伝いができたらな、と思っています。

小出:ひとりひとりの目覚めの先に、ほんとうの意味で「平和」な世界が、きっと、力強く開けていきますね。おなかの底に響いてくるような、素晴らしいお話でした。栗生さん、本日は、ほんとうにありがとうございました。

栗生:こちらこそ、たのしかったです。ありがとうございました。

(撮影:佐藤圭祐)

【栗生隆子(くりゅう・たかこ)】

発酵生活研究家。
シンプルな暮らし、家庭でできる発酵生活を実践したところ、長年の腸疾患を自然治癒力で完治。
その経験から、目に見えない菌が健康にも環境にも大切な役割をしていると実感し、発酵への理解を深める。
カラダの中の仕組みは自然界と同じと気づき「発酵・循環・調和」をテーマにした執筆活動や国内外で講演を行う。
足下を温め、心もカラダも穏やかになる、血液の循環をさせる「冷えとり健康法」も実践。
著書に「豆乳グルグルヨーグルトで腸美人!」(マキノ出版)、「植物性乳酸菌の力で腸キレイ TGG(豆乳グルグル)ヨーグルト 」(永岡書店)、『体も家もピカピカになる「お米の発酵水」』(扶桑社ムック)。その他、監修本も多数。
ナチュラルシフト共同代表。
発酵全般を楽しむサイト「facebook/TGG豆乳ヨーグルト同好会」の管理人。
◎blog 「ようこそ!発酵カフェへ」
http://ameblo.jp/cafe-baum/
◎facebook「TGG豆乳ヨーグルト同好会」
https://www.facebook.com/groups/721334441212364/

※この対話記事をベースとして、12月1日(木)の夜に「Temple@神谷町光明寺」というイベントを開催します。ぜひ、ふるってご参加ください! 栗生隆子さんご本人も参加されます。くわしくは当サイトEventページをご参照ください。

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